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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

オカルトと商品価値

バイダイナミクスビオディナミ)農法については以前もちょっとだけ触れたことがある(こっちとかこっちとか)。でも、ビオディナミワインは呑んだことはない。

みたいなぼくではあるのだけれど、産経新聞エナック(どうでもいいけどインドネシア語だと末尾のKは発音せずに「えなっ」にならないか)のワインはこれから“ビオディナミ” と云う記事を読んだ。

最近はそもそもワイン自体をそんなに呑まないのだけど、いちばん呑んでいた30代前半の頃も、それこそ蘊蓄の垂れようもないような安いワインばかり呑んでいた。新大陸のシラーズやシャルドネ、スペインのテンプラニーリョだの。そもそもワインの味の見当を葡萄の品種でつけようとすること自体が貧乏人の証で、せいぜい張り込んでロス・ヴァスコスとか。
当時の仙台ではバロン・フィリップ・ロートシルトのスタンダードが1本980円、ムートン・カデが1500円程度で安定して買えたのだった。ひとりものが手製のがさつな料理やスーパーの惣菜をあてて呑むワインにそれ以上のものが必要なもんか。

だからと云って、グラン・ヴァンを追求する酒のみを、べつに馬鹿にはしない。たぶん呑めば旨いんだろう。投資したぶん舌も肥えるだろうから、ぼくなんかが知らない世界をたくさん知ってるんだろう(とは云え、そう云う手合いの酒のみで、自分よりよく味がわかってそうな向きにはあまり会ったことがない。なんか、高級車を運転する人間にあまり品のある奴を見かけたことがない、みたいなあたりにちょっと似ている)。

でもまぁ名前を呑む、蘊蓄を呑む、値段を呑む、みたいなのは(そこについて語らなければ)べつだんかわいらしい趣味の域を超えない。付加価値を呑むのも、オカルトを呑むのも、まぁ同じ。

健康志向の広がりに伴い、自然派ワインが人気だ。中でも、化学合成された農薬や肥料などを使わない有機農法ワインの1つである「ビオディナミワイン」は土壌造りや栽培、醸造に宇宙の力を借りるという神秘的な取り組みから、愛好家以外の関心も高まっている。

有機農法であることは、それだけで特に味のよさや安全性を意味しない。オカルトであることも同様。でも、そこを見抜けるような舌は(ぼくを含め)多くのワイン呑みはもっちゃいない。金があまっている人間はぼくみたいにそこそこ呑める程度においしくて安いワインを血眼になって探したりする必要はなくて、有機だろうとオカルトだろうとおいしく感じられるワインを買ってきて呑めばいいのだ。

その意味で、まぁこのシュタイナー農法も、そのあたりのニーズに応えたものなんだろう、と思う。実行するのはそうとうたいへんみたいだけど、その部分は価格に転嫁すればいいし、よろこんで払う層がいるんなら、充分商売としては成り立つわけで。
ただまぁ、そのへんを好むワイン呑みは、あんまり語らないほうがいい、とは思うけどね。底が知れるから。