Chromeplated Rat

街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

いい試合

オリンピックシーズンのフィギュアスケート世界選手権は搾りかすのようなもの、なんて云われることは多くて、まぁそれはそれで勝敗を競う競技と云う本質のひとつに鑑みれば正当な話ではあるけれど。でもやっぱり、観たいのはこんな「いい試合」なのだった。

去るひとたちが多いのもこのシーズンならではで。なので、忘れたくないことがいくつも。

ジェレミーの、深い内省までをも観るものに届けてくるような演技。トマシュの、ずぼらにはっちゃけているように見えて、根底に独特の品格を湛えた演技。カロリーナの演技にしかない、なんと云うか、雄大なエレガンス、とでも呼ぶべきようなもの。そして、鈴木明子

町田樹と云うスケーターに対する興味が個人的にどうも薄くて、それはたぶん意図した完成形の枠組みを緻密に埋めていく、と云ったアプローチが気に喰わなかったからなんだろう、と思う。でもそれはそれで、きっちりと完成してしまえばちゃんと感銘も受けられるのだった。

あとは、小塚くんの復活を待つのみ。音楽から得たインスピレーション、ではなく、「音楽そのもの」を表現できる稀有なスケーターの復活を。

結弦はやっぱりジェーニャに似ていて。

心技体、と云う話をすれば、トップクラスの選手はそれがすべて高次元でバランスしているのは当然で、そのなかでの微細な配分の違いが個性となって出てくる、と云うことなんだと思う。それにしても、そのなかでここまで「心」が突出するのはさすがにふつうではない。自分の演技を客観視できる透徹した視点が共存していなければ、演技としてのかたちが整うかさえ怪しい。

そしてやっぱり、彼にはそんなクレイジーなスケーターでいつづけてほしい、とも正直思う。それにしてもなにが「意地と気合」だ。おだづなこの野郎っこ。

そして(逆説的な角度からだけど)はじめて見たように思う。真央の「強さ」を。

ユーリャも、ハビエルも、グレイシーも、素敵だった。よい試合でした。