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断言の前に

quine10さんの疑似科学批判(5) まとめと云うエントリを読んだ。この方は一連の「疑似科学批判」シリーズのエントリを挙げていらっしゃっている。

ただ、どうも「誰のことを云っているんだ?」的印象が否めない。一般論のようでもあり、特定のひとの特定の言説を問題にしているようでもあり。そのあたりを曖昧にすることに、なんらかの意図とか狙っている効果があるのかもしれないけれど。

つまり、疑似科学的志向それ自体を批判するわけにはいかない。
とすれば、自由な社会において疑似科学的なものを批判する上で、どのような形があり得るか?

まずこの部分から、なんか話の前後が逆転しているようで違和感がある。疑似科学的志向それ自体を批判するわけにはいかないと思うのなら、批判しないだけの話で、ふつうはそれで終わりのはず(そこに正当性がないのを本人が理解しているわけだから)。正当性のなさを本人が自覚していてなおそれでも行う「批判」は、そもそも批判ではないだろう。批判の対象そのものに向かわない動機に基づいて、かたちだけ批判に似せた言説を行ってそれを批判であると称するのは、手短に云えば自己欺瞞で。

一つは、その疑似科学自体に他者危害が内包される場合は、疑似科学それ自体を批判する根拠になると思われる(優生思想がその代表格である)。
一つは、疑似科学「を用いて」他者への害をなすということが考えられる。
最後に(これが水からの伝言批判でもっとも重視されているものと思われる)、「疑似科学的なものが蔓延ることによって、人々が健全な思考(批判的思考)を身につけるチャンスを失ってしまう」、という批判が考えられる。

このあたりは、あらきけいすけさんのエントリに触発されてこのあたりで論じた話とも関係している、と思う。で、そのときには「そのあたりも言及しているんだけど、分量的に追いつかない」「論じてもその部分については相対的にリーチが足りない」みたいな議論にもなった(コメント欄参照)。継続的にニセ科学批判にコミットしている論者がこのあたりでどんな議論をしていたのか、どんな認識を共有しているのか、がquine10さんに伝わっていないと云う事実そのものが、なんかそのままリーチの問題につながっているようで複雑ではあるけれど(でも、ぼくとしてはそのあたりの経緯も踏まえないで論じているquine10さんのスタンスも如何なものかな、とか思うけれど。ある程度一般的に敷衍可能な主張をされているおつもりなのであれば)。

少なくとも、水からの伝言へ言及したブログの糾弾は、このような目的に適うものではないと断言できる。いかなる糾弾もその対象を萎縮させるという効果以外は持ち得ない。萎縮は、それを正面から取り上げるという機会を奪ってしまいがちである(臭い物に蓋、という条件反射を起こしがちである)。

糾弾と云う非常に強い意味を持つ言葉をお使いだ。素直に読めば「一般的なニセ科学批判の言説が糾弾としてのスタンスで発話されている」と云う理解のうえにこのエントリの主張が成り立っている、と読める。で、端的に云ってこれは事実誤認、と云うか間違いだと思う。

おそらくは相当にオフェンシヴな論者と見なされているとおぼしきぼく自身のニセ科学批判に分類される言説も、そのほとんどは糾弾ではないし(もちろん糾弾にちかいニュアンスを持つ場合もある。それは当然、批判対象の言説の内容やスタンス、立ち位置によって変わってくる)、その対象を萎縮させるという効果を生じさせたことは、ぼくの記憶では、対象と対話が成立していくらかでもみのりある議論が可能になったことよりもまれなはずだ。
このあたりはまぁ、ぼくのスタンスが特定個人の考え方に対する批判、と云う方向にあまり向けられていない、と云うことにも関わってくるのだけれど(向けられていないのはおもに適性のなさ、と云うか力量の不足を自分で認識しているからだったりする)、例えば同様に継続的にニセ科学批判にコミットしている論者でも特定個人との議論と云う部分に重きを置いているかたは、いかに糾弾に陥らず、相手を萎縮させることもなく有効に対話を成立させるか、ということについて心をくだかれている(lets_skepticさんの一連の論考をまずは参照していただきたい)。

とりあえずお手軽に断言するまえに、このあたりのことについても踏まえてから発話してほしいなぁ、と思う。特定の誰かの特定の言動、と云うことが示されていない以上、ここでquine10さんがのべられたことは、それを読むひとが「疑似科学批判」として認識しているものすべてにおしなべて向けられているもの、と捉えられて当然なのだから。
と云うかまず、もの申す前にせめてFAQまとめwiki(Aug.13,'08修正)くらいは読んでいただければうれしいなぁ、とか思う。

あれ。この結論は、少し前にニケさんのエントリに言及したときと同じだったりすることであるなぁ。