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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

ロードーカ

フジサンケイビジネスアイみそにバッハ/納豆はモーツァルト、弾む発酵?名曲シャワーと云う記事を読んだ。

またモーツァルトか、と云うか、今度はバッハか、と云うか。

朝8時になると、バッハの「マタイ受難曲」「管弦楽組曲第1番」が響き渡り、みそを寝かせた築160年の土蔵は一気に“コンサートホール”に生まれ変わる。佐藤知彰社長(45)が、酒蔵でクラシックを流す日本酒メーカーをヒントに、好きだったバロック音楽がみそにも効果があるのではと、すべてのみそに対し昨年春から始めた。

好きだったバロック音楽がみそにも効果があるのではって、結局は社長さんの好き嫌いって話なのかい。正直でよろしい、と云うか、そんなんが根拠でいいんだったらプラズマティックスだろうがアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンだろうが構わないんじゃないかと云うか、でもなんかマタイ受難曲は違わないか。いや嫌いじゃないですが(うちにはガーディナーとイングリッシュ・バロック・ソロイスツの抜粋盤しかないので全編聴いたことがあるわけじゃないですけど、て云うか一生に絶対3回も聴かないような完全盤なんて欲しくないですけど)、なんか麹に苦行を強いているような。いや発酵は麹にとって大変な仕事で、麹にとっても使命感や信仰心が必要な種類の労働なのかも知れないですが。

塩分や湿度に強いプール用スピーカー7台をみそ蔵の天井に設置し、タンクに向けて1日9時間、半年にわたり曲を流し続けた。その結果、醸造期間を約1割短縮できたという。佐藤社長は「酵母の動きが活発になるからだろう」と分析し、「みその色つやが良いうちに出荷できる」と胸を張る。

よくわからないけど醸造期間を約1割短縮できたってのはいいことなのかな。いや商売をする側からするといいことなのは間違いないけど。これって麹が敬虔な気持ちになって勤勉に働いた、って理解がされているんだろうか。でも管弦楽組曲は世俗曲だしな(こっちはまともに聴いたことがない)。

佐藤雅寛社長(59)はモーツァルト音楽に多く含まれる高周波音に人間への癒やし効果があると聞き「納豆菌も癒やされるに違いない」と確信した。「まず珍しいと興味を持ち、実際に食べておいしいと感じてもらえるように」と県産大豆や水など素材へのこだわりも忘れない。

なんか前段の確信したってあたりロジックがジャンプしていて、こっちで触れたような「納得力」を要求するような展開になってるんだけど、それ以前に納豆菌が癒されるのはいいことなのかどうかさっぱりわからない。さっきの麹と逆で、リラックスしすぎて仕事をしなかったりすることはないのか。

いやまぁでも、そう云う付加価値のつけ方が結果的に品質にも関わってくることはあるよなぁ、品質的に変わらなくてもおいしく感じることはあるよなぁ、みたいに思うのはこっちで書いたとおりではあって。でもなんかそう云うのを麹とか納豆菌とかの「気持ち」に集約させて理解するのはどんなもんかな。もやしもんでもそう云うことはしないと思うぞ。

東京農大の東和男講師(醸造科学科)は「科学的実証はまだなされていない」としながらも「納豆菌や酵母といった微生物に音による空気の振動を感知する機能が備わっているのかもしれない」と話している

これ、まず東和男氏がほんとにそんな言い回しをしているのかから疑ってかかるべきなんだろう。そもそも備わっているからなんなんだ、とか思うけど(この辺言外の意味をにおわせる書き方がいやらしいと云うか)。

それはそれとして、この種の話を扱うときになんとなく自分で歯切れが悪いなぁ、みたいに思っていたのだけれど、漠然とその理由に思い当たった。このエントリの末尾に書いたこととも関係してくる気がするけど、やっぱり音楽というものをある種のコマンドのようにみなす発想の不気味さや味気なさはもちろんとして、そのコマンドを発することで細菌であろうと人間であろうとより効率よく働かせようとする「経営側の発想」が透けて見える部分にも、どうもぼくは気持ちの悪さを感じているみたいだ。