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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

学ぶこと

以前より時折読ませていただいているtaejunさんのブログの最新エントリ、ファイナンス理論からの10のメッセージ8:効率的市場仮説を読んだ。

この方のブログはとても面白くて興味深いのだけれど、なんと云うか、えぇと、読む側のぼくに知識が足りなくて追いつかない部分があるのがちょっと問題だったりするのだ(おれも経済学士のはずやねんけどなぁ。まぁ唯一取った近代経済学関係の単位が、教科書がDornbuschとfischerのMacroeconomicsだったりしたので、英語の講義だか経済学の講義だか分かんなかったのもあるけど)。

この「ファイナンス理論からの10のメッセージ」シリーズの趣旨については、第2回のファイナンス理論からの10のメッセージ1:ファイナンス理論で出来ること、出来ないことで述べられている。

 ファイナンス理論で出来ること、出来ないこと。 今後の連載のまとめ的な位置づけになります。


 1.出来ないこと−打出の小槌なんてない
 2.出来ること−より賢い生き方が出来るようになる

そう、おっしゃるとおり。努力しなくてもうまくやれる打出の小槌なんてないのだ。このシリーズは、この視点からの「ファイナンス理論に基づいたライフハック(って云い方は軽薄でちょっと申し訳ないけど、他のどんな言い回しもニュアンス的に重ったるくなりすぎる)」的な内容をお書きになっている。面白いのだ。難しいけど。

でもまぁ、真理なのだ、と思う。
うまい話、と云うのはだいたい情報の非対称性を源泉としていて。よくある「株でひと儲け」と云うのは、要するに「みんなが知らない『秘密の理論』があって、それを知らないひとをカモにできる」と云うことで。でも、そんな理論はないのだ。
短期間とは云え機関投資家として働いていた、つまり証券会社の名の通ったアナリストに電話一本で見解を聞くことのできる立場だったぼくには、一般人とプロのあいだに圧倒的な情報の非対称性が存在することを知っている。有価証券報告書を精読することさえしないデイトレーダーは、中長期的には「カモにされる」だけだ(そう云えばずいぶん前にこんなエントリを書いたことを思い出した)。

きちんと理論を学んでいれば、サインを見逃すことはない。理論を学んだ人間がメインプレイヤーとなっている市場では、情報の非対称性は発生しない。完全に効率的な市場では、「ひと儲け」はできない。もちろん多少なりとも情報のタイムラグは発生するのでそこで収益機会はあるし、言及先エントリでも触れられているようなイレギュラーも実際にはあるし、カモの個人投資家からむしりとるかたちで収益を獲得することもできるけれど。

 上でも書きましたが、市場で成功するには、市場を出し抜く必要があります。 
 ちなみに、市場を出し抜くという事は、どういう事かというと、市場にいる、一番賢い人々の予想を裏切るような読みをもって投資を行う事を意味しています。 別にそれができるというのであれば、いいのですが、これは相当に難しいです。

それができる、と信じているひとたちはいる。「株で大もうけできる最新理論」みたいな情報商材を買うようなひとたち。あやしげな新なんとか理論とか、出所不明の極秘情報で、豊富な情報量を持つプロを出し抜けると信じているひとたち。まぁ多くの場合は痛い目に遭って気がつくわけで(気がついてからでは遅いこともけっこうある、と思う)。

で、思うのだけれど。
これって「マイナスイオン(orゲルマニウムor波動物理学orその他もろもろ)の理論は正しい。科学者たちが否定するのは、あまりにその理論が画期的なので現代の科学のほうが追いついていないのだ」と云うロジックにそっくりだったりする。彼我の圧倒的な情報量の差、と云うのをなぜだか簡単に無視し去ることができてしまう、と云う点で。そして、その心理の奥底に「誠実で地道な努力なしに成果だけ欲しい」と云う発想が横たわっているように見える、と云う点で。

 事実、過去ほとんどのファンドは、あるただ一つの資産の収益率を上回り続けることができませんでした。

 その資産とは、市場ポートフォリオ。 具体的には、TOPIXがそれにあたります。 

これは壮絶な皮肉だ。でも、同じような皮肉は、ぼくたちの社会のなかでかたちを変えて何種類も見て取ることができるのじゃないだろうか、とも思う。