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アプローチ

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Bronze Blossoms~ブロンズの開花 バリ島ガムランの奇跡2

Bronze Blossoms~ブロンズの開花 バリ島ガムランの奇跡2


ガムランの楽団には地縁をベースにしたものと、地域から独立するかたちで成立したものがある、と云う話は以前にも書いた。後者をサンガルと呼ぶ、と云うことは皆川厚一氏によるこのCDのブックレットの解説で初めて知ったのだけど、このマニカサンティはそうしたサンガルのひとつ。結成は1994年、と云うことはヤマサリよりも少し新しい、と云うことか。

リーダーは芸大教授らしい。なんか名前を聞いたなぁ、と思ったら、例えばこちらでレビューしたアルバムでは作曲者としてクレジットされていたり、まだレビューは書いていないけれどこちらの楽団の復興メンバーのひとりだったりと、バリ芸能の立役者のひとりのようだ。

バリ芸大発の楽団としては、ここで2枚ほどレビューしているスマララティがある。音楽を体系的・学術的に学んで、それをベースに再現していく、と云う発想が共通しているせいか、スマララティのゴン・スマラ・ダナ同様このマニカサンティの楽器もどうやら変形ゴン・クビャールのようだ。解説によると、7音のゴン・クビャール(と云うかすでにそれではゴン・クビャールではないので皆川さんもそう云う書き方はしていない。でも既存の7音ガムランとも違う楽器である、と云う書かれ方だ)。

既存の楽器に音を足すことで(演奏性がより複雑になると云うデメリットを甘受したうえで)表現の幅を広げる、と云う点ではスマララティとこのマニカサンティは同じなのだと思う。でも、アプローチの方向は大きく違う。スマララティには、その広がった表現能力を、より現代的な曲構成や展開に振り向け、活用していこうとしているように感じられる。それに対してマニカサンティでは(おそらく精妙なチューニングを中心的な技術として)かつてバリに存在したいろいろなガムランのバリエーションをひとセットの楽器による表現に集約すべく、可能な限りその表現力を広げる、と云うことに主眼がある、と云うふうに思える。

その証拠として、このアルバムに収められた曲の多彩さといったらない。1枚に5曲というのはガムランのCDとしてはまぁ一般的な曲数だけれど、全体を通して聴くと、とてもひとつの楽団、ひとセットの楽器による演奏とは思えない。なんと云うか、「ガムラン」と呼ばれる音楽のバリエーションのエッセンスを持ち寄って、ひとつに集約しようと云うようなもくろみが感じられる。まぁそれでもそこにはやっぱり新設の楽団ならではの視点と云うのが加わっていて、その辺り例えば4曲目辺りちょっとにんまりしてしまうのだけれど(お葬式用ガムランに似たのどかなメロディのままコテカンが入ってヒートアップしていってしまうのだ)。

そう云う意味で、なんと云うか「教科書的」と云う言葉の中からいいニュアンスだけを取り出したような音楽だなぁ、と感じたのでした。