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Chromeplated Rat

街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

事実とモラル

よしなしごと

市川衛さんによるこんな記事を読んだ。

bylines.news.yahoo.co.jp

ちょっと違う話になるけど。昨日のエントリでもちょっと触れたけど、Welqの問題については、Googleのいまの技術的水準がどのあたりにあるのか、と云う部分が晒されたって話でもあるよなぁ、みたいに思う。DeNAのキュレーションメディア部門がブラックハット的なSEO技法を使っていたのかどうかはわからないけれど、意外とホワイトハット的なランキング基準でも記事の(SEO用語としてではなく、本来の意味での)品質と云うものをサーチエンジンははちゃんと担保できない、と云うのがわかってしまった。
これってちょっと、現時点でのGoogleのスキームにとってはまずいと思うなぁ。ちょっと前だと、こんな記事もあったし。

jp.techcrunch.com


まぁそれはそれとして、市川衛さんの記事に戻る。

調査の結果わかったのは、「誤解を生む」コンテンツのほうが、正確なコンテンツよりはるかに多く拡散されているということです。
この結果についてシャルマ医師はCBSのインタビューに対し、次のように述べています。
多くのアメリカ人はネット上でニュースを得るようになっており、フェイスブックはなかでも有力なツールです。しかし、伝統的なメディアと異なり、フェイスブック上の医療健康情報は規制されておらず、疑似科学的な陰謀論は人気があり、したがって正確な情報よりも多くの人に届く傾向があります。

このへん、どうしてニセ科学が流布するのか、と云う話とも関連してくるように思う。

事実を伝えるのは往々にして難しい。事実はわかりやすいものとは限らないし、受け入れやすいものとも限らないから。
わかりやすく伝えようとすると、精度が犠牲になりがちだ。受け入れやすく伝えようとすると、事実を枉げてしまいそうになる。このあたりはせめぎあいで、伝える側の能力が充分に高ければそこのところはうまくやることも(きっと)できる、と云う話でもあるのだけれど、いずれにせよ「事実を伝える」と云うことには最初から難題が課せられている、と云うことには違いがない。

このあたり、内田麻理香さんの書評にかこつけてちょっと書いたことがあって。

schutzengel.hatenablog.com

もちろん、内田さんは科学を枉げよう、なんてことを考えているはずはない。だけど、自然科学者としてのスタンスを踏まえた有能な書き手でも、このへんは難しい課題なのだ、と云う話。

で、この課題は、「伝えるのはかならずしも事実でなくてもいい」ってな具合にルールを変えるだけで、見事に霧散霧消する。精度を気にする必要もなくなる。事実と反した受け止められ方をされまいとする努力も不要になる。いくらでも読み手の気持ちに寄り添えるし、読み手の求めている言説(それはつねに正確な事実であるとは限らない)を提供することができる。

この「求めているものを提供する」と云う機能が、ニセ科学が流布することの背景にはつねに存在していて。「水からの伝言」は「こどもたちが汚いことばを使うことを、かんたんに手っ取り早く防ぎたい」と云う教職員や親御さんのニーズに応えたものだし、EM菌は「環境保全放射能除去を(あまり頭を使わずに)手軽に行いたい」ってニーズに応えるもの。なので、「誤解を生む」コンテンツのほうが、正確なコンテンツよりはるかに多く拡散される、って事態が生じるわけで。
まぁこのあたりがすべてのニセ科学に当てはまるのかと云うとやっぱりそんなに単純ではなくて、医療周辺でもホメオパシーとか予防接種有害論なんかにはまた別の原理が働いているって話になるのだけどね。

で、ニセ科学やデマはかなりの場合「金になる」。昨日書いたことだけれど企業には本来モラルなんてものはなくて、金になることならなんでもする。まぁこれはニセ科学にまつわる企業でなくてもそうなんだけど、ニセ科学で商売している企業については、その根底にそもそも事実に対する誠実さが存在しないぶん、あからさまなわけで。
一例として、東日本大震災後に日本国内のホメオパシー団体がとった行動をまとめたid:Mochimasaさんのエントリにリンクしておく。

mochimasa.hateblo.jp

みごとに「被災者の気持ちに寄り添って」いますね。

このことを事実として、情報の受け手は踏まえておく必要がある、と云うことになると思う。とか云ってもそんなに難しいことじゃなくて、「そんなにうまい話はそうそうないのだ」と云うことを念頭に置いておくだけでもかなり効果があるはず、ってのはニセ科学に関係する議論でも随分云われてきたことで。

感情的で、煽情的なものほど「気になる」ということ自体は人間の性であり、致し方ない面もあると思います。でも、せめて命や幸福に直結する医療・健康の情報では、丁寧で正確なものがもっと日の目を見るようにならなければと思います。

で、これはインターネットにおいて価値のある情報を届ける存在、と云う看板を掲げて商売をしてきたGoogleにとってもたぶん由々しき事態ではあると思うのだ、ってな感じでエントリの初めの部分につなげておく。丁寧で正確なものがもっと日の目を見るようにならなくなるような状況に加担したわけだからね。