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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

フィギュアスケート2012年中国杯

なんか結弦も小塚くんも町田くんもえらいことになっていたらしいスケートアメリカも(それにしてもSportivaの、 アメリカ大会で逆転負けも、羽生結弦の未来に不安を感じない理由と云う青島さんの記事には笑った。エントリ書くかな)、うつけがひさびさに表彰台に上がったスケートカナダも、個人的な事情もあってちゃんと見ることができなかった。そう云うわけで今シーズン初のフィギュアスケート関連エントリ。

それはそれとして、成美ちゃん手術かぁ。無事を祈ります。

シーズンと云えば毎年シーズン・インするとともに荒川静香の解説についてのエントリへのアクセスが復活するのだけど、今季テレビで聴いていても、ずいぶんこなれたもんだよなぁ、と云う印象がある。生来の頭の回転の速さ、いまだ競技選手に劣らない「現役感」を背景に、ことばの選び方や話すタイミングを理解し始めて、なんかじつに的確(森下アナがどうしても勉強不足の感が否定できないぶん、逆に噛み合わなかったりもするけど)。較べて岳斗の解説がどうにもぼんやりした感じに聴こえてしまうのは、やっぱり新採点を現役として体験しているのかどうか、と云うのがちょっとかかわってくるのかな。

とりあえず今大会の個人的な推しは李子君(どう発音するんだろ)。なんと云うか、怪物化する前のヨナ・キムってこんな感じだったんじゃなかったかなぁ。スタミナは課題だろうけど、個人的な(よこしまな)角度から女子シングル選手を見るとスタミナはあればいいってもんじゃないしなぁ、っていきなり余談ですね。すみません。

今大会ではちょっと久しぶりに「凄い浅田真央」と云うのを見たように思う。オリンピックイヤーにちょっと別世界に飛んでいってしまって、前季はなんだかもやもやとよくわからない状況が続いて。この今季の演技のための前季だったのか、と云うとそのへんまでは見て取れないのだけれど、なんかバンクーバーの頃よりもさらにひとかわ剥けた感じがある。

明るいSP、優雅なフリー。どちらもそもそも真央が持っている資質に、強みに沿ったプログラムではあるのだけど、十代なかばの彼女に見られたような「資質にもたれかかっている」印象はもうない。自分の資質とできることを理解し、みずからそれを最大限に活かすことを意識したうえでの演技。

楽しいから笑うのではなく、楽しさを表現するために笑う。辛いからはかなげな表情を浮かべるのではなく、伝えるためにその表情を示す。まだ完全ではないかもしれないけど、もはや「Girl」ではない、と云うことを強烈に印象づける。なんと云うか、彼女の方法において、無敵かも。

ところで白鳥の湖と云うと荒川さんのサイバースワンとか大輔のヒップホップスワンとか、ちょっとしたブレイクスルーをもたらす曲、みたいな個人的なイメージがあって。真央の白鳥も奇をてらった衝撃はないにせよ、かつてない彼女を見せてくれるプログラムでした。

トリノの荒川さんを「She's a woman!」と形容したのはディック・バトンだった、って話だけど、そのことばをメディアを通して直に聞いたことはない。

だいたい女子選手は十代のまんなか辺りから頭角を現してきて、二十代のなかばまで競技生活を送る。その間におおむね内面にもフィジカルにも変化が起きてくるのが通常で、そこを乗り越えるとその演技は「Girl」のものから「Woman」のものになる(世界中の現役の女子シングル選手のなかでだれがもっとも「Woman」かと云うとそれはもちろんあっこちゃんで、これには年齢も関係してくるんだろうと思う。ちょっとだけ見たスケートカナダでは、佳菜子が「Woman」に向けて大きく一歩を踏み出した印象があって、ちょっとびっくりした)。

ユーリャ・リプニツカヤと云う選手ははじめて見た。極端な柔軟性とジャンプのバネ、スタイルの良さに姿勢の美しさ。どの要素を見ても欠けることがないのに、全体の印象はどこかばらばら。悪い印象はないのだけれど、あきらかに「Woman」の演技をしてみせた真央と並べられてしまうと、どうしても「Girl」の演技に見えてしまって、あぁなるほどこう云うことか、みたいに感じたりした(でもリーザについてはそんな感じはしないんだよねぇ)。ひょっとすると、スケーティングそのものがそれほど印象的なものではない、と云うのも関係しているのかもしれないけれどね。それでも、荒川さんにシニアデビュー当時の真央を連想させた資質はすばらしい。

日本の男子シングルと云うとまず武史の「漢のスケート」路線があって。トップチームを構成する三馬鹿がこぞって個性のかたまりみたいな独自路線を突き進むのに対して、無良くんと町田くんが黙々と「漢」路線を踏襲する、みたいなイメージがあった(そこに突き抜けてきたのがなんだか突然変異種みたいな結弦)。町田くんはある意味地味な実力者、みたいな感じで見ていたんだけど。

あれ、町田くんってこんな不敵な表情を見せる選手だったんだっけ?

かつての大輔も見せてきた「剛」のスケート。役者負けはしかたがないけれど、でも欠けるものはないはず。きっとハビエルやデニス・テンが好敵手になる。

で、大輔はあいかわらずスロースターター、なのかな。優勝はしたけれど、たぶん本人としては最悪の競技会、だったんじゃないかな。

「あの表情」がまだない。フリーのプログラムではなにがやりたいのかまだ見えてこないけれど、最近あまりなかった「戦闘用」のプログラムなのはなんとなくわかる。もちろん例年そうなのだろうけれど、とりわけ今季は「勝つ」ことに的を絞ってきたのだろう、と云うのが現時点での印象。その印象が正しいのかどうかは、NHK杯ではもうすこし見えてくるのかな。