Chromeplated Rat

街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

うそを語らせる

例によってほぼリンクしたいだけのエントリになるけど。アクアマリンふくしまの復興日記復興ブログの終了についてと云うエントリを読んだ(7月いっぱいで公開を停止するみたいなので、ちょっと悩んだけど魚拓へもリンク)。

 本題である生物多様性に関する問題、と云う部分については、残念ながらちゃんと論じるだけの素地がぼくにはないので、元のエントリに書かれていることに付け加えられることもないのだけれど(かなうものならば、梨さんの力を借りられないものか)。

生物多様性」の問題とは別に私が問題だと思っているのは「ホタルは0.5μSv/hの放射線を浴びると光らなくなる」と主催者は主張し、ホタルが復興に結びつくと信じてプロジェクトを行っている点です。

現状東北のこの界隈の人間はどんなことでもやって収益に結び付けないと喰っていけない、みたいな身もふたもない現状もあって(こっちでも書いたような話)。詳細は勘弁してもらうけど、ぼく自身もこの1年と数か月、はっきりと震災復興(およびそこに流れ込むおカネ)の関係するあたりでずっと仕事をしてきているので、そのあたりは皮膚感覚でわかる。
ふくしま復興ホタルプロジェクトのウェブサイトを見ると、このプロジェクトの思惑が見える。

ホタルは「0.5μSv/hで発光器が損傷を受け光らなくなる。ホタルは自然界のガイガーカウンターなんです」(阿部先生)。それならばホタルが飛んで光り、さらにそこに根付いて世代交代を重ねられれば、その場所は完全に安全であることが証明されるわけです。
美しい光でこころを癒してくれるホタルが意外な力を持っていた!

とりあえずホタルが光っている → ホタルの発光器はだいじょうぶ → 空間線量は0.5μSv/h以下だから安全、と云う理屈。

炭鉱のカナリアじゃないんだし、わずかな線量でも損傷が生じる、と云う主張を意外な力を持っている、と受け止める感覚も、どうもあまりに人間の都合しか考えてない感じでひっかかるのだけれど、それよりもそもそもそんなことがあるのか(ちなみに空間線量0.5μSv/hと云うのを基準におけば、現時点でもそれを超える地域はそれほど狭くもない。いわきはそこから外れるけれど)。

そこの部分について、このブログをお書きのTさんは、技術顧問としてふくしま復興ホタルプロジェクトにたずさわる阿部宣男氏に直接確認している。

●0.5μSv/hでホタルが光らなくなるとの研究は茨城大学との共同研究で行ったとのこと。
データを頂きたいと申し出ましたが、「文部科学省から止められているから出せない」と断られました。なぜ止められているのか理解はできませんが、論文としては発表されていないようです。

をを、推測するに文部科学省陰謀によって闇に葬られた研究が根拠なんですね。

●0.5μSv/hで発光細胞が破壊され始めるのであって、光らなくなるわけではないことも、認めていました。では、実際に光らなくなると思われる線量はどれぐらいであるか質問したところ20mSv/hで光らなくなるのではないかとも。

単位も桁も違っちゃってるよ。40,000倍じゃん。
どうするんだよ。いわきのひとたち、湯本のひとたちは信じちゃってるよ。プロジェクトの公式サイトに書いちゃってるよ。朝日新聞の取材に対してもしゃべっちゃってるよ

湯本のひとたちはそりゃ切実で、すがれるものならすがりたいんだろうなぁ、みたいな気持ちは痛いほどわかる。でも、この際うそをついてでも、みたいに思ってるかと云うと、かならずしもそうじゃないんじゃないか、みたいに思う。きっと、信じてるんだ。 じゃ、この技術顧問氏がどんな意図でそのうそを信じ込ませてるのか、と云うと、まぁそれはわからない。うそを信じさせているのじゃなくて、あえて誤解を解いていないだけだ、と云うことなら、そりゃ技術顧問としてどうよ、と云う話にもなるだろう。悪意はないかもしれないけど、善意ならいい、と云う話でもない。ご本人ひっこみがつかないのかもしれないけど、湯本のひとたちがひっこみがつかなくなるためまえに、どうにかしたほうがいいんじゃないかなぁ。
自分の云うことを信じてくれているひとに対して、それはひどく罪深いことだと思うけど(ニセ科学の周辺では、とりわけ医療関連でよく見る光景ではあるけどね)。

なおこの技術顧問氏、ナノ純銀なるものの出すエネルギーが放射能を打ち消すと云う主張をなさっている。とりあえず山形大学の天羽准教授による反論のエントリ、「ナノ銀」へのコメント(2012/04/26)にリンクを張っておく。

…しかし、こう云うエントリを辞表を準備して書かなきゃならないのが、福島県の現実ってことなのかなぁ(いや、福島県庁がどんなふうにすかたんなところなのか、みたいなことについては、この1年ちょっとで若干は体験してるけど)。