Chromeplated Rat

街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

南相馬から来たビーグル

徒歩で通勤中に赤信号で止まったら、自転車に乗ったおっちゃんがビーグルを連れて信号待ちしていた。

とりあえず街を歩いていて犬に出会ったら、状況が許すかぎりあいさつして、先方の気が向くようなら友好的なコミュニケーションを試みるのが個人的な習性。かがんで目を合わせて、拳を握って鼻づらに手の甲を差し出す。くんくん。だいたいこのあたりの表情で、その犬がこちらを気に入ったかどうか、こちらを相手にする気があるかどうかがわかる(敵意や警戒心がなくても、パトロールにいそがしい場合もあるし)。

くんくん。にっこり。日本犬ほどじゃないけれど、ビーグルは比較的表情が読みやすい。

尻尾が水平になっていて、どことなく落ち着きのない足取りだったので、ちょいとごきげんななめなのかな、みたいに感じていたけれど、そうでもないみたい。首と喉元をなでて、胸を軽く叩く。あまり興奮していないような穏やかな感じで、それでも立ち上がって抱きついてくる。腹が見える(オスだ)。しあわせな育ちかたをしたんだろうなぁ。

「愛想はいいんだけどね。おれには絶対、抱きついてきたりしないですよ」

おっちゃんが云う。え、なんでなんだろそれ。

南相馬で飼われてたんだけど、預かってるんですよ。帰れないしねぇ」

なるほど。安心して歩けない、馴染みのない街だった、と云うことなんだね。里親のおっちゃんが世話してくれるけれど、なんか心もとない、ってわけだったんだ。

周りを見回すと、通勤中のひとたちの姿がたくさん見える。あと30分もすれば、もっとたくさんのひとが行き交う情景が見られるだろう。いまの仙台の街はもう、去年のいまごろと一見なにも変わっていないようだけれど、でもおなじような影はこの風景のなかにいくつも落ちているんだろうな、とか思う。見えなくても。