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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

フィギュアスケート2011年NHK杯

なぜだかNHK杯って云うのは、高得点の出やすい大会だ、と云う気がする。

いや、毎年会場も違うし点数を出す側も違うメンバーなんだから、そんなことがあるはずもないわけで。合理的に考えられる可能性としては、そろそろその年の得点の相場が決まってくる(そして出場選手の演技も練れてくる)時期に開催される、と云うくらいしかないんだけど。

それはそれとして、今大会は名演技が量産された大会だと思う(いや、全員じゃないよ。と云うか駄目なときのトマシュは毎回同じように駄目だなぁ)。たぶんそれは、会場と氷のコンディション、によるものなんじゃないかな。

NHKはわがいとしのアグネスのSPを放送してくれなくて、なんだかなぁとか思ってたらFSは放送してくれて、やったぁとか思ってたらメイクのせいなんだかどうだかなんかマリリン・マンソンみたいな顔になってて、やっぱりどうだかなぁとか思ったけどどうでもいいですね。

鈴木さんは完全じゃないかもしれないけど、ほぼ仕上がってて。

なんと云うか、ゴージャス、と云う言い回しが似合う演技をする日本人の女子選手って、村主さん以来、みたいに思う。豪奢な「こうもり」が、なんと似合うことか。

村主章枝鈴木明子の共通点を探すと、その美しい姿勢によるソリッドなスケーティングとスピード、と云うことになるんじゃないか、みたいに思う。あきらかにこれらの要素が、結果として与える印象の優雅さにつながっている。フィギュアスケートの玄妙さ、みたいな部分だなぁ。

あと、好調なゲデヴァニシヴィリ・エレーネと云うのをトリノ以来初めて見たようにも思う。FSのステップでのポカは、なんか単車に調子よく「乗れてる」状態でワインディングをかっとんでいて、ブラインド抜けたら砂が浮いてた、みたいな感じかなぁ。ジャンパーとしての資質も、売り物の身体の柔らかさも、充分に見せてもらいました。

あとなんだかレオノワの演技でちょっと安藤美姫を連想したのは内緒。そうならざるを得ないんだろうね。

真央は、えーと、こう云うのを目指していくんだろうなぁ。でまぁこう云うのを目指していて、しかも3Aが決まらない真央って、個人的にはどこを見ればいいのかよくわからない。いや、昨期と較べてジャンプは格段に素敵になりましたよ(修正前以上に)。成功すればね。

そう云う訳で高橋大輔。去年よりもさらに抽象度の高い選曲。

ブルース、と云うのはポピュラー音楽における巨大な地下水脈で。それはそもそものフォーク・ブルースからすでに遠く離れ、遍在する未解決なエッセンス、のようなものとして、さまざまなジャンルの音楽に内包されている。ブルースである、と云うのはどう云うことか、と云う問いを残したまま。なんか古川日出男沈黙に登場する「ルコ」を連想させる話だけれど。

ただ、ひとがブルースに触れるときに感じる、無彩色の官能性、みたいなものはエッセンスとして共通しているようにも思う。とすれば、ブルースを表現する、と云うのはそれを表現することだ。

フィギュアスケートの競技としての評価項目に、「音楽表現」と云うものがあって。すでにそれ自体表現であるものを表現の対象とする、と云うことについてはこちらですこし書いたりもしたけれど、結局のところ、大輔はこのオルガンによる3拍子に分解されたジャズ・ブルース(ブルースそのものではなく、それゆえにより今日的な意味で「ブルース」でありうるもの)からなにを汲み取り、なにを表現として選ぶのか、と云うことに挑戦することになる。

あのあえぐような、もがくようなステップは、みごとな回答のひとつ、のように感じる。

小塚くんも、いいよ。もう欠けるものはなにもない。大輔が今季行なっているようなトライは、小塚くんははるかに前から着手してきたわけだから。このまま、今季は丁寧に突っ走っていってもらいたいなぁ。