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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

よそんちの台所事情

homeotalkさん(と云うか株式会社スタンダードホメオパシー)のキューバのレプトスピラ症とホメオパシーと云うエントリを読んだ。 キューバってのは妙な国で。 最貧国のひとつなのに教育水準が高い。スポーツも強い。まぁこのへんはフィデルのぶれない姿勢のおかげと云うか、南米的マチズモにもとづく見栄っ張りのせいなのかわからないけど、現時点で現実にそう(音楽の水準も馬鹿高いけど、これはまぁ国民性、なんだろな)。 で、医療水準も高い。医療ぜんぶ無料。国民だろうが旅行者の外国人だろうがみんなただ(そのかわり、医療を受けるにあたっての患者の選択肢、なんて云う贅沢なものはない)。医学部は学費無料。おおきな災害があったら相手がどこの国でも(喧嘩の最中でなければ)すぐに医師を無料派遣。このへん、現在のキューバ社会の精神的支柱のひとつと云ってもいい(と思う)医師、コマンダンテチェ・ゲバラの思想の影響もそうとうありそうに思う。そう云えば(つれあいに確認したけど)ぼくが面識のあるキューバ人3人のうちふたりが医学者だった。 でも最貧国。ものはない。薬もあんまりない(となりの超大国は売ってくれない)。
レプトスピラ症はネズミによって媒介され、スピロヘータという細菌によって引き起こされる感染症で、熱帯地域の雨季にもっとも多く流行します。

2007年の流行時に、キューバではワクチン数が充分なかったため、高リスクを持つ15,000人にしかワクチンを配布できませんでした。そこで政府は、流行地域の1歳以上の全住民に対してホメオパシーのレメディの配布を決定しました。
どうして、高い医療水準を誇るキューバが、そんな選択をしなければいけなかったのか。そもそも、ワクチンが足りない、と云う状況がどんな背景を持つものか。キューバには、国内生産のキャパシティを超えるワクチンの入手方法は存在しないのだ(ってえか、貧しいなかでほとんどを国内生産でまかなってるんだよねぇ。でもって無償で接種してる)。 そして、そのキューバでたくさんとれる、コストの安い農産物は?
ホメオパシーのレメディは、もっとも流行の激しい地域の230万人に配られたそうです。すると数週間の内に発症率が例年よりはるかに低くなったとか。レメディを配布されなかった地域の発症率は例年通りだったそうです。効果は翌年も持続し、レメディが配布されなかった地域の発症者が22%増加したのに対し、配布された地域は84%減少しました。
独裁体制の社会主義国大本営発表を真に受けてどうする。「効果がなかった」なんて発表ができるもんか。通常医療、と云う選択肢がない状況なんだから。
The Cuban National Vaccine Instituteのホメオパシー部門(こういう部門があるのですね~)の部門長Dr. Sara Eamesによると、「流行が激化しそうなとき、とりわけ準備や配布に時間の猶予がないときには、発症率を下げられそうなものならばどんなものでも真剣に取り上げて、さらに研究しなくてはならない」ということで、調査対象はキューバの全人口に匹敵する1,100万人にまで広げられ、結果として「感染症・合併症の予防にホメオパシーの有効性が非常に高いこと」が確認されたそうです。
ちゃんとした医療教育を受けた人間が口にせざるを得ない発症率を下げられそうなものならばどんなものでも真剣に取り上げて、さらに研究しなくてはならないと云う言葉のニュアンスを、どんな意味合いで捉えてるんだろう。 キューバは、有機農業の水準も高い。なぜか。単純に云って、それはソヴィエト圏が崩壊して、化学肥料が入ってこなくなったから、で。 それでも国民はなんとか食べていかなきゃならない。でも隣の超大国が海上封鎖してるのでどこからも食料を持ってこられない(そもそも買って何とかできるほどお金もない)。そしたら化学肥料に頼らない農業でなんとかするしかない。飢えちゃうもの。 で、ともかくなんとかしたわけで、いまもいちおう(余裕はないだろうけど)なんとかなってる。なんとかしたと云ってもキューバではそうとう怪しい農業技術も試されたり、研究されたりしていて、結局背に腹は代えられないので役に立ちそうなことはなんでもやってみる、って状況(キューバの農業については吉田太郎さんのキューバの有機農業と云うサイトに詳しい。医療のことも載ってるし、コマンダンテフィデルの演説の翻訳なんかもあったり)。 なんとかなった。でもそうしたくてしたわけじゃなかった。なんとかなってる。でもみんなのおなかがちゃんといっぱいになったわけじゃない(踊ってるあいだは忘れていられるのかもしれないけど)。結果的には先進的な有機農業技術を持つことになったのかもしれないけど、要するに怪我の功名。 ホメオパシーを試みなきゃいけなかったのも、事情は同じ。そう云う背景のあることがらを、安直に称揚する神経はどうかな。
このように大規模なホメオパシーの研究調査がもっと行われるといいですね。
よその国の台所事情を思いやりもしないで、こんなことが言えちゃうわけですね。自分たちで試みもしないくせに。 さっきリンクした吉田太郎さんのサイトの「オルターナティブ医療のモデル」と云うページから、ちょっと引用してみる(1999年の、ちょっと古いテキストだけど)。
だが、一方で、ハバナでタクシーを運転するラモン・エスピノサ氏(29歳)は、懐疑的である。

「診療所では他に何も利用できなかったので、私はホメオパシー療法のドロップを静脈洞炎の伝染病に使っています。そして1週前にしても、同じほど悪さを感じるのです。私たちのほとんどは、ドロップやハーブやお茶よりも、錠剤の方をもっと信頼していると思うのです。ですが、今のところは、私たちは手にできるものでやりくりしなければならないんです」