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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

「あいだ」に住む (「科学と神秘のあいだ」菊池誠)

Webちくまで連載されたエッセイ「科学者にも怖いものはある」の書籍版。ただし大幅な加筆によって、内容はだいぶ異なったものになっている(ので、Webちくまで連載を読んでいたかたにも再読をおすすめ)。

科学と神秘のあいだ(双書Zero)

科学と神秘のあいだ(双書Zero)

  • 作者: 菊池 誠
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/03/24
  • メディア: 単行本

この連載にはここのサイドバーからもリンクを張っていたんだけど、書籍出版にともなってかサイトが消えていたので外した。

このタイトルでこの著者だから、ニセ科学についてのエッセイだろう、とたいていのひとは思うだろう。それははずれてはいないのだけど、厳密には違う。タイトルにあるとおり、主題は科学そのもの、そしてそれを受け止めるぼくたちのなかにある、ぼくたちの感じる「神秘」。

ぼくたちが世界を認識するときのいち方法として洗練されてきたのが、科学と云うメソッドだ。それはきわめて有効で、その方法にのっとることで、世界のすべてをみることができるのではないか、と勘違いしてしまいそうなほど(だから、それを詐称することに利用価値が生じる、と云うことでもある)。
でももちろん、そんなことはないのであって。ひとが主体として世界と接する場所には、すてきなものがいくつも生まれてくる。本書のなかでおお括りで「神秘」として扱われているそれらはもちろん、だいじなものだ。そのことについて、このエッセイはやわらかい語り口で思索をめぐらせてゆく。

菊池誠はこのエッセイで、まるで身近な中学生に語りかけるような文体を選択している。充分に相手を尊重しながら、ていねいに自分の考え方を説明しようとするような。おかしな科学で見られるような、当意即妙のギャグを連発する彼の日常の会話に近いスタイルとはすこし違うけれど、それでもとても正直に、著者は科学と云うひとつの考え方について語っていく。そう、あくまでひとつの(だけどとても有用な)考え方、として。

だから、おとなの読者はもちろん、できれば中学生・高校生に読まれてほしい、と思う。でてくる音楽やSFがちょっと古くておっさんくさいのは、まぁ著者がおっさんだからしかたないのだけど。
インターミッションとしてはさまれているテルミンについての文章も、たんなる休憩パートではなくて、本書に欠くことのできない内容を含んでいる。

あと、西島大介による表紙のイラストが、とてもすてき。本書の主題を、「科学」と「神秘」のあいだに住んでそこで暮らすぼくたちのすがたを、みごとに描いている、と思う。