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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

フィギュアスケート2010年世界選手権女子シングル

なんと云うか「みなさまおつかれさま」的な試合ではあったと思う。

とてもあたりまえのことのようにも思うけれど(そんでもってなんだか駄洒落みたいだけど)今回観ていて改めて感じたのは、フィギュアスケートと云うのはとてもエッジィな競技なんだな、と云うこと。大技に挑戦するにしても、ひとつひとつの要素を破綻なくまとめあげてプログラムを構築するにしても、そこには充分なフィジカルと、強く繊細なメンタルの両方がそろう必要がある。結果としてなにを重視するか、どんな部分を強調した演技として表出するか、はそれぞれの個性と云うことになるけれど、その面では変わりはなくて。

結局のところオリンピックに出場した上位選手はだれもが今期のピークを過ぎた状態にあって、だれもがシーズン全体のなかでの疲労の極限に近い状態にいて、結局のところはまずモチベーションと集中力を競う大会みたいになってしまった。それはそれで、スポーツとしては特段奇妙でもないのだろうけれど。

その部分でやっぱり、ポテンシャルを出し切れない選手もたくさん。おいら個人の贔屓筋でいけばクァク・ミンジョンやゲデヴァニシヴィリ・エレーネ、抜群の安定感そのものが個性みたいなレイチェルでさえもが当人比で存分、とは云えない演技で終わってしまった。あのSPのあとで見事な気持ちの切り替えを見せてフリーに臨むことができた鈴木さんは、その面ではやっぱりすごい、と云ってもいいのかな。そのへん、大崩れなく自分の演技、と云うのを示してくれたラウラが3位、と云うのはまぁ適切な場所なんだろうな。

あと長洲未来が、(選手としてのタイプはまったく違うけれども)数年前の真央を思わせる「小さな怪物」ポジションに陣取りつつあるのをはっきりと感じた。いまアメリカの看板として立つ、と云うことはアレクサンドラの跡目を襲うことになるわけで、そこにはそれなりの重みもあるように思うけれど、これからどうなるのかな。

ヨナ・キムはもう来期の韓国出場枠獲得だけを目的にしているような、その意味では完全に「国だけ」を背負ったみたいな状況での出場で。それでも銀メダルを確保してみせたのは貫禄ではあるけれど、やっぱり今期のプログラムはそもそもぜんぜんイージーなものなんかじゃなかったんだよなぁ、みたいなことを再確認させるような内容で、もうなんと云うかじつに玄妙な気分にさせられた。ステップで客席からのハンドクラップが湧き上がらないボンドガールは、思いのほか寂しいものなのであるなぁ。

オリンピックのときも少し感じたけど、「闘わない安藤美姫」と云うのはこう云う演技をする選手だったのだなぁ。これはこれでとても魅力的ではあるけれど、個人的には寂しさもあったり。いや、いくらなんでもいつまでも追いつめられた精神状態にいてほしい、とは云えないんだけどね。

でまぁ、そう云う流れとはやっぱり別のところに、浅田真央はいるわけで。

なぜ彼女だけがそんな場所にいることができるのか正直不思議にも思うけど、「鐘」はみごとな演技だった。もう、それだけで充分。彼女は来期も、女子フィギュアスケートと云う競技のフィールドを広げてくれるのだろうな。

オリンピックでの全員入賞に続いて、ジュニア・シニアあわせて日本人選手が男女シングル完全制覇。そのことそのものには特段感慨はない(選手に思い入れはあっても国籍にはない)けれど、こんな時代ももう来ないんだろうなぁ。