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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

バイクと脳(の話なのかな)

1年くらい前に触れた川島隆太教授とヤマハ発動機による共同研究について、3月時点で結果が発表されていたのをいまになって知った(参照:ITmedia記事「オートバイ運転で脳の機能向上、ストレス軽減も——川島教授とヤマハ発の研究」、こちらがヤマハ発動機によるリリース。しかし加齢医学研究所のサイトにも川島研のサイトにもいっさい情報がないな)。でもってこの研究はどうも第2弾が行われるらしい、と云うのを東北大学のプレスリリースで知る。

もう半年も前の研究結果発表についてうんぬんするのは間抜けな気もするけど、研究そのものは継続するようなので。
ヤマハ発動機のリリースはわかりやすい。わかりやす過ぎてなんだかわからない。

 この度の研究結果により、二輪車乗車と脳の活性化には以下の関係があることが証明されました。

1)二輪車を乗車することにより、運転者の脳が活性化されること
2)現役ライダーとブランクのあるライダーとでは、脳の使い方や活性化に違いが生じること
3)日常生活に二輪車乗車を取り入れることにより、様々な脳認知機能(特に前頭前野機能)が向上し、さらにメンタルヘルスにおいてもストレスの軽減や脳と心の健康にポジティブな影響を与えること

(引用部分は整形しました。ってえかテーブルレイアウトやめれ)

いやまぁこう云う結果がでてくれないとヤマハとしてはそりゃ困るだろうし、こう云うことが云えそうだ、と云う方向が見えたから研究継続、と云う話になったんだろうけど。 二輪車を乗車することにより、運転者の脳が活性化されるたって、そりゃ普段と違うことをすれば普段と違う脳の部位を使うことになるのはあたりまえでしょう。ボクシングをしたって算数ドリルや漢字の書き取りをしたって同じことは云えそう。

上掲のITmediaの記事はもうすこし実験の詳細が掲載されていて、そちらを見るとどうも日常的にバイクに乗る状況にあるひととそうではないひとを比較する、と云うのがメインだった模様。でもって上の引用部分の(2)なんかの結論を導いたみたい。(3)については事後のアンケートにもとづく結論のよう。
このへんどうしてそう云う結果になるのかわかるようでわからない。ITmediaの記事に掲載されている結果発表のスライドには「現役ライダーは運転中に言語的な情報処理を積極的に行っている」と云う記載があるけど、それがいいことなのかどうかさえわからない(操作に慣れてるから、路面状況とか交通の流れとかの情報を処理する余裕が生じているだけじゃないのか、と云うふうにも思える)。もうすこし詳しい情報はないのかな、とか思って探してみたら、ヤマハ発動機の公式ブログにバイクに乗ると若返る??(前編)(後編)と云う記事があった(なぜかひどく重い)。

被験者にはベテランライダーと、しばらく乗っていなかったライダーにご協力いただいたのですが、実は両者ともに、人間しか発達していない、しかし二十歳を越えると誰もが機能低下の下降線をたどる「脳の前頭前野」という部分が活性化されることが分かったんです!

活性化されるのか、そりゃいいことだ、みたいな感じも受けるけれど実際問題「脳の前頭前野」という部分が活性化されるのがどんなふうに、どれくらいいいことなのかわからない。ちょっとした知り合いに物知りのGoogleさんと云うかたがいらっしゃるので尋ねてみると、川島教授が東北大学「まなびの杜」と云う機関紙に掲載した脳を知り、脳を守り、脳を育てると云うタイトルの文章がある、と教えてくれる(いつ書かれた文章なのかはよくわからない。ってえかフレームやめれ)。

これらの実験から、文章を読んだり、計算をしたりすることが、前頭前野をとてもよく活性化するとの結論に達しました。

で、ここで上であげた「現役ライダーは運転中に言語的な情報処理を積極的に行っている」と云う結果発表と理路がつながる。ようするにひんぱんにバイクに乗れば言語的な情報処理をする機会が増えて、それは脳の前頭前野の活性化につながる、それはとてもとてもいいことなのよ、と云う筋道みたいだ。
でもこれだけでは、前頭前野活性化にどんないいことがあるのかはよくわからない(脳を健康に保ち、元気に発達させるためには、この前頭前野を常に刺激し、活性化させることが一番大切なことなのです。とは書いてあるけど、なぜか、と云うのは書いてない)。筋道にぼこっと大穴があいている。

探すと、サイエンスポータルに掲載されている川島教授のインタビューが見つかる。前頭前野活性化にどんないいことがあるのか、について川島教授が述べている。大穴はこれでとりあえず埋まる。
じゃあ、それを踏まえたヤマハ発動機の見解はどうか。

しばらく乗っていなかった方は、昔とった杵柄の如く、以前乗っていた感覚を呼び戻すような形で、どちらかというと脳の直感で乗っていました。また、走行全般においてもデータ上はそれほど集中力の高まりが見られませんでした。

反して、現役の方は様々な場面で脳の中での集中力の高まりが確認され、また直感的ではなく、論理的に情報をきちっと処理しながら、乗っている事が分かりました。

この実験で、バイクに乗車することで脳が活性化している事が、世界で初めて確認できたわけです。

いやこれさぁ。バイクに乗車することで脳が活性化している事が、世界で初めて確認できたったって、それ「初めてそのことを確認する実験をした」ってだけじゃん。先にも書いたけどふだんしないことをすればそれまで活用されていなかった脳の部位に負荷がかかって使われる、と云う話で(いや、このことが仮説ではなくていろんな実験によって確かめられつつある、と云うのはまさに脳科学の進歩、って話なんだろうけど、そう云う次元の議論じゃないんじゃないかな)。で、この実験結果を素直に読むと、出る結論は「たまに乗るんじゃなくてしょっちゅう乗れ」ってことになるように思えるんだけどな。
そりゃしょっちゅう乗りたいけどね。「前頭前野活性化のためだ!」とか云ったらつれあいも許してくれるかな(いやうちのつれあいはそもそも乗るなとは云わないですが。勝手にどこにでも出かけなよ、って云うありがたいタイプ)。

2カ月後、メンタルヘルスに関する自己認識のアンケートを実施すると、通勤などでバイクに乗っていた方々にはストレスが軽減される、身体の体調が改善されるなどの効果をはじめ、仕事中のミスが減るといった効果まで確認できました。つまり、行った実験を総合的にみると、「脳と心の健康にポジティブな影響を与える」結果が出たことになります。

なんか単に「リフレッシュしました」と云うだけの話のように読める。まぁここの部分は自己認識アンケートだけではとどめてなくて、テストの実施による検証もしているみたい。

この検証については、アンケートの他、作動記憶力(例えば、読み上げられた数字を順番通りに記述する能力)や、空間処理力(例えば、ある図形を頭の中で回転させて、対象となる図形と一致するかを判断する能力)、それから、概念操作力(例えば、複数の言葉から共通点を見出す能力)や、論理思考力(例えば、複数の絵をストーリー性のある順番に並べる能力)を計測する認知機能検査も両方のグループに対して実施しました。その結果、バイクに2カ月間親しんだグループで、これらさまざまな認知機能向上が結果としてあらわれました。

なんか読むかぎり、この部分がいちばん重要で意味のある部分のような気がする。こう云う面でこれらの能力を養うのにバイクが最適、と云うことにはまぁならないわけだけれど(それぞれ個別には、もっと有効なスポーツもあるだろうから)、少なくともバイクに乗ることがそれらの能力向上に意味があるのなら、バイクに乗るのっていいですよ、とは云える。たしかにこれらの能力ってバイクに乗るときに使っているものではあるし。
まぁもちろん乗り方によっても違ってくるだろうけど。ハイウェイかっとび番長とワインディング膝すり野郎とダウンタウンすり抜け小僧(ぼくはどちらかと云うとこれ)じゃ要求される能力はだいぶ違ってくるようにも思うし。

今回の実験は、元々「バイクに乗っている中高年の方は何故元気に見えるのか、或いは若返ると言っているのだろう?」という実験前にあった観察や、昔からよく言われている「爽快感、開放感があってバイクは気持ち良いよ」という抽象的な表現が、正に科学的に検証された形となりました。

そこまで云っていいのかなぁ。ちなみにバイクに乗っている中高年の方は何故元気に見えるのか、或いは若返ると言っているのだろう?」と云う点については上でリンクした以前のエントリで(まったく科学的に検証されていない、でも常識的に思える線での)個人的な仮説を書いたけど。

何故バイクが気持ち良いか。それは、脳が活性して、様々な効用を身体にあたえていたんですね。

なんかそう云うことを云いたい気持ちはすごくわかるけど、そんな結論が出せる研究結果じゃないと思うぞこれ

それはそれとして末尾あたりで、このエントリは研究の継続にも言及している。

次の研究次第では、「じゃあ具体的にどんなタイプのバイクに、どうやって乗ったら効果的なの?」という疑問に、もしかしたらお答えできるかもしれませんし、また脳の活性化を考えた場合の、進化させるべきバイクの技術や、逆に残すべきものなんかも、見えてくるかもしれません。そのような研究も今進めているところだそうです。

これが今回東北大学のリリースした第2回目の研究の内容になるのか、についてははっきりはわからないけれど(脳活性化における因果関係を乗り物の種類などとの関連で測定し分析、市場でのマスサーベイを長期間行い活性効果の経時変化を測定します。と云うことらしいけど)、なんかそう云うことを考えるのに使えるデータを収集しよう、と云うのだったらこれはめちゃくちゃ面白そうだ。いやどんなバイクが脳にいい、とかそう云う話じゃなくて、どんなバイクに乗るのにどんな能力がいるか(逆にどんなバイクを選べば、より安全に自分の楽しみたい方向に沿った乗り方ができるか)みたいな部分を論じるための材料に使えそう。
結論は、検索と引用がめんどうだからいらないテーブルやフレームは使うな川島教授とヤマハ発動機ちょーがんばれ、と云うところにします。