Chromeplated Rat

街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

「善意」の居場所

テレビ朝日「報道ステーション」でがん患者への施療としてホメオパシーを好意的に取り上げた件についてはここでもエントリをあげたけれど、この件についてテレビ朝日がなんらかの見解を表明した、と云うような話はまだ聞かない。こんなところでもこの種の話題を取り上げると複数の報道機関からのアクセスがあるものだけれど(いやもちろん顕著な反応があったりはしませんが)、どうもテレビ朝日からのアクセスは見受けられない。なんかこのまま頭を低くしてやりすごそう、とかしてるのかな。

それはそれとして、ホメオパシー(に代表されるある種の代替医療)のもたらしうる直接的な害悪のサンプルについて、NATROM先生が喘息に対するステロイド治療を否定するホメオパシーでとりあげていらっしゃる。

代替医療とそこにまつわる責任の所在、と云うことについては、最近だとこのエントリに書いた。もう少し前だとこのエントリとか。このふたつは同種の話題に何度か触れたなかでも言及先の方と直接の対話が成立したまれな例ではあるんだけど、でもどちらにしてもちゃんとこちらの意図が通じた、と云う印象ではないのがちょっと残念。

ホメオパシーを利用するものいいでしょう。しかし、気管支喘息は死ぬこともある病気だということを認識し、必ず医師の診察を受け、医師に必要だと判断されたら吸入ステロイドをきちんと使用してください。とくに、あなたの子どもが病気であるのならなおさらです。あなたが守ってあげないといけません。ステロイドが喘息を殺人病に変えた」などという悪質なデマをとばす組織を信用するべきではありません。「どうしてもステロイドを使うのが嫌だ」と考える方もいらっしゃるかもしれません。そういう方にお願いがあります。ホメオパシストが「ステロイドは良くない」とアドバイスをしたときに、言質をとってください。文書にして記録してください。万が一、あなたやあなたの大事な家族が、ステロイドを使わなかったせいで不幸な結果になったときの保険です。ホメオパシストのアドバイスのせいで不利益を被った人は、恐れずに、ホメオパシストの責任を問うてください。そうすることで、今後、不幸な人が増えるのを防ぐことができます。

大事なのは、医師の医療行為には責任が問える、と云うこと。濫訴の問題とは別次元の話として、原則そこには職業上の責任が存在するし、場合によってはそれは法廷で問われうるものである、と云うこと。

苦しむ患者に善意で代替医療を奨めること、それ自体はそれほど問題を生じさせないかもしれない。奨めるひとの善意は、例えばここでは疑われるべきものではないかもしれない。
ただ、思わしからぬ結果につながったときに、その代替医療の施療者の行為は、そしてあなたの善意は、その結果にもとづいて問われる責任にほんとうに耐えうるものであるのか、と云うことに思いを馳せてもらえれば、と思う。

もちろん、医師も無限の責任は負いきれない。それにしたって、一定範囲での職業上の責任にもとづいておのおの判断を下しているのだ。たとえばホメオパスは、同じだけの(善意、ではなく)責任をもってその施療を患者に施しているのか。だとすれば、その責任の寄る辺としているのは、いったいなんなのだろう。
なんでこんな余計なお世話にもなりかねないことを主張しているのかって? 心境としては、どらねこさんがずるいよあんたと云うエントリでお書きの、この一文にあらわされているものとおおむね近い、のだと思う。

さんざん、ヒトを馬鹿にしたあなた。それでもあなたが入院したら、私は辛いのだよ。

ぼくはけして善人ではないけれど。でも、(自分を含めた)誰かの善意が地獄への道の敷石に使われるようなことがあったら、それは耐え難いほどにつまらないことだよなぁ、とか考えたりするのだった。