Chromeplated Rat

街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

収穫のかたち

もう、これは自分たちの受け止めるべきものだ、と考えて購入。

CHINESE DEMOCRACY

CHINESE DEMOCRACY

  • アーティスト: Guns and Roses
  • 出版社/メーカー: Geffen
  • 発売日: 2008/11/24
  • メディア: CD
 

ロックのアルバムが出た、と聞いてCDショップに駆け込んだのは、いつ以来になるんだろう。

ロックが本籍地だと自認するわりに、リアルタイムのロックを真面目に聴かなくなって長い。これは世代的なものもあるんだろう、と思う。
ものごころつく前(まぁ、音楽について意識的になる前)からロックはあったし、気付いたときにはそれは変革の対象になっていて。ぼくはすでに資産として存在するロックを吸収しながら、リアルタイムでそれが再解釈され、破壊され、改革される様子を見ていて。それはまぁ、すでに存在するものでもあったし、まだ目の前で変わりゆくもの、でもあって。そしてその頃は、自分たち(の同世代)はまだ主役として登場していない状況。
いくらかの期間は、そうして待った。そして、自分たちと同じ時間を過ごした連中がロックを動かす側にまわった時代に、同じ環境と同じ成長の過程を背負っていきなり表舞台に殴り込んできたのが、ロージズだった、と云う感覚がある。

ぼくたちのあの頃の熱狂を、共有出来ないロック好きは多いんじゃないか、と思ったりする。少し世代が上だったり、下だったりするだけで。だからその熱狂は80年代の終わりから数年しか続かなかったし、実際のところそれ以降のロック、それ以降の音楽に対する影響力は皆無に等しい。
それは、ぼくらの世代が享受してきた音楽、自分たちより前に積み上げられたロックを蕩尽し尽くすに等しい、お祭りめいた現象だったから。
そして、ぼくはいま現役のロックシーンには強い興味は持てないままだ。たぶんそれは、そこにあるのが自分たちがいったん祭りのなかで蕩尽した要素の、自分たちよりあとに来たひとたちによるリサイクルのように感じられるから、だと思う。気付いたらパンクと云う言葉はアティテュードではなく、ある音楽的様式を示す言葉に堕してしまっているのが現実ではあるし。

と云うわけで、なにかを期待していなくとも、このアルバムを聴かなければいけない、と感じるだけの切実さはぼくにはあって。ロージズと云う名前がバンドのものではなく、すでにアクセルひとりのものだ、と云うことは知っていても、その名前に象徴されるものは、ぼくは受け止めなければいけない。
で、聴いたかぎりでは、うまくやったな、と思う。

ロージズがとっくの昔に実質的にバンドではない、と云うのは周知の事実で、逆に云うとロージズがちゃんとバンドとして意義のある活動を行っていた時期はわずかしかない。それはスラッシュとイズィのツイン・ギターがバンド内で機能していた時期、と云うことで、そう云う意味ではごく初期のみ、と云うことになる(ちなみにそう云う意味では、ぼくが一度だけ東京ドームで見たロージズはロージズではなかった。ギルビー・クラークがギターを弾いていたので)。このふたりが、ぼくが思春期に接した「ギター・ヒーロー」のバリエーションをふたりだけで8割型体現している、と云うのが、ぼくにとっての「バンドとしてのロージズ」だった、と云うことだ。

でも、ロックバンドは先に進まなければいけない。「次の表現」に向かわなければいけない。
ロックのボキャブラリーがすでに伝統芸と化し、アノニムなイディオムとして対象化されてしまっていたとしても、そこに留まるのはロックではないのだ(ちなみにこれが、ぼくがリアルタイムのロックを聴かなくなった理由のひとつでもある)。そしてそれは、かろうじて成し遂げられている、と感じる。そこにかつてロージズの名前が示し得た、ある普遍性とも云えるようなものを見いだすことができるか、と云うのを見極めるためには、もう何度か聴いてみないと難しいけれど。

とりあえずそこには、いまでもアクセルの、3オクターブすべてを飛び道具としてではなく、表現のリソースとしてコントロールしてしまえるヴォーカルは健在だった。どれだけデジタルなアシストを受けているのかはしれたものではないにせよ、まぁ、そのこと自体は喜ばしく感じる。