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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

不十分な情報

ぼくはバリガムラン好きで。でもここでもけっこう書いているけれど、バリには一度ツアーで行ったことがあるだけで。基本的には録音ベースでしかガムランに触れていないし、その水準でしか語れない。とは云え、背景となる情報は書籍とか、アルバムのブックレットとか、いろんなサイト(ROSI南部さんのところとか)から入手できる断片的なものだけで。
だから、ときおり情報不足でどう捉えればいいのかよく分からないアルバムもあったりして。これとか。

絢爛と超絶のガムラン

絢爛と超絶のガムラン

 

Amazonは変なグループ名を書いてるけど演奏はティルタ・サリ(のはず)。
ティルタ・サリと云えばスマル・プグリンガン・サイ・リマと云うかプレゴンガンと云うかで有名なグループ。ぼくがいまから15年ばかり前にアルバムと云うかたちで初めて聴いたグループでもある。それがゴン・クビャールを演奏している。って、どう云うことなんだろう。

ブックレットを書いているのは大橋力a.k.a.山城祥二氏で、いつものごとくちょっと大袈裟な感じのある賛辞が連発されているような内容。とりあえず分かるのは、この“ティルタ・サリのゴン・クビャール”を率いているのが現ヤマ・サリの親玉であるチョコルダ・アリッ・ヘンドラワン氏であること。録音は1990年なのでヤマ・サリの結成前だ。

いろいろ疑問が湧いてくる。そもそもひとつの楽団が2セットの楽器を持っている、と云う例はぼくの狭い見聞のなかでは聞いたことがない。ティルタ・サリそのものは現在でもプレゴンガンの楽団として存続しているはず。例えばティルタ・サリがその後プレゴンガン・チームとゴン・クビャール・チームに分かれて、後者がその後ヤマ・サリに発展した、とか云うのなら理解できるのだけれど(このアルバムにも、ヤマ・サリの主要レパートリーのひとつであるその名も「ヤマ・サリ」と云う曲が収録されているし)、ヤマ・サリの楽器はグループ結成時に新造されているはずなので、このアルバムで演奏されている楽器がどこに行ったのかが分からなくなる。

不思議なのは、楽器がまるきり違うはずなのに、なんとなく「ティルタ・サリの演奏だなぁ」みたいに感じる部分があること。グヌン・サリほどドライではない、どこかに硬質な甘さ(って、よく分かんない形容ですね)を秘めた演奏。すごく面白いか、と云うと、同傾向にあるヤマ・サリのアルバムを2枚ほど聴いてしまっている身からすると比較してしまって微妙なんだけれど。

ちなみにこのアルバムは日本におけるスタジオ録音で、ほかのビクター盤の大半を占める現地ライブとは少し趣が違う。とは云え近い状況で録音されたスマラ・ラティのアルバムみたいにばきばきに分離がいい、と云う感じじゃなくて、もっと空気のなかで楽器の音が混じり合っている感じがする。まぁスマラ・ラティほど前衛的なアプローチをしているわけではなくて、もっとずっとトラディション寄りの演奏である、と云うのもあるのかも知れないけど。

ついでに。日本レコーディングのメリットで、ブックレットにパーソネルが掲載されている。このアルバムの録音時のティルタ・サリは26人。とは云えヘンドラワン氏以外にはもちろん知らない名前ばかり。スカワティのワヤンのダランとして著名なイ・ワヤン・ウィジャ氏と同名のメンバーがいるけど別人だろうしなぁ。あ、ROSI南部さんのお師匠さんのイダ・バグース・スガタ氏がルバブを担当してます。