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音色

キングレコードが手持ちの音源を再シリーズ化した「ザ・ワールド・ルーツ・ミュージック・ライブラリー」をリリースした。で、ちょっと思い切ってひさしぶりに1枚購入。

バリ/グヌン・ジャティのスマル・プグリンガン

バリ/グヌン・ジャティのスマル・プグリンガン

  • アーティスト: グヌン・ジャティ
  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 2008/07/09
  • メディア: CD
 

再発・新音源、小泉文夫採録から今年になってからの録音まで新旧取り混ぜて150枚の大シリーズなのだけれど、そのうち21枚がバリのもの。狭いところにバリエーション豊かな音楽が密集しているから採録しやすい、と云うのはあるにしても、まぁ随分なプレゼンスではある(とは云えチャクプンとかゲンゴンでまる1枚と云うのはそれほど購買意欲はそそられないけど)。

で、買ったのはグヌン・ジャティの2枚組。1枚目は再発で、2枚目は(同時に録音されたとおぼしき)新音源、と云うちょっと変則的な取り合わせ。再発の1枚目は聴いたことがあったのだけど、大半を40分以上に及ぶレゴンがどおんと占めていて、2枚目はどちらかとあれこれ取り合わせ、と云う感じ。グヌン・ジャティはここでノンサッチ盤ビクター盤のレビューを書いているけれど、この録音は1990年末のものになるので、いちばんあたらしい。

とは云えまぁ、聴いてみてそれほど新鮮味はなくて。そもそもグヌン・ジャティと云う楽団は、新しい表現の可能性を追求する、と云うような志向のグループではないので、そのあたりはまぁ承知のうえ。聴き方としてはひたすらこの楽器の響きと練れた演奏を楽しむ、と云うことになるのだけど、ぼくはその面でこの楽団が大好きなのだ。

うちにある都合3枚の録音のうちノンサッチ盤だけは40年近く前の録音で、技術的にも古いし、当時はまだ代替わり前だったのでメンバーもだいぶ違うと思われる。これに対してビクター盤と今回買ったキング盤は録音時期が4年ほどしか違わないので、多分ほぼ同じ内容の楽団なんだと思う。録音者の違いが音質の違いには現れているけれど、それでもそこで鳴っている楽器は同じもの。

この楽器は本来カレラン王家(と云うかグンカ)のもので、グンカがグヌン・サリをつくってゴン・クビャールに力を注いでいた時期に使われていなかったものをタガスの村人が借りてきてコリン・マクフィーの助力で復活させた、と云う経緯がある(らしい。複数の書籍その他をベースにしたぼくの理解)。晩年のグンカがスマル・プグリンガンの楽団をつくることにしてこのセットを返してもらおうとしたけれど、もうこの楽器とタガスの村人たちは一体となっていたのでそんな無体なことはできず、結局この楽器をコピーしてひとセット新しいガムランをつくって結成したのがティルタ・サリ、とまぁこの辺りはたしか踊る島バリ―聞き書き・バリ島のガムラン奏者と踊り手たちに掲載されたグンカかイ・マデ・グリンダムのインタビューに載っていたような。

ティルタ・サリの楽器の音色もとても甘く聴こえるのだけれどそこにはなにか鋭くて硬い芯のようなものが感じられて、なんとなくサクマ式ハード・キャンディと云う印象がある(わけわからん形容ですみません)。そこには楽器としての優秀さが感じられるけれど、グヌン・ジャティの楽器の音色から感じられるものはまたそれとはまったく別のもので。
グヌン・ジャティの響きはもっと謎めいた艶のようなものがあって、柔らかいのだけれどどこかデモーニッシュな妖しさがある。新鮮味はなくても、そこにある独特の生命感のようなものに、ぼくは惹き付けられる。

よくわからないけど、齢400年を経た楽器らしいのでじつはすでに付喪神になってしまっているのではないか、みたいに思わないでもなかったり。