文化衝突 (「ベルカ、吠えないのか?」古川 日出男)
だいたい何冊か本を並行して読んでいるので、結果的に読み終わるまでが遅い。その並行して読んでいるなかでもやっぱり止まらない本と云うのはあって、そう云う本はほかの本を読み進めるペースを律速する結果になる。
- 作者: 古川 日出男
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/05/09
- メディア: 文庫
こいつのおかげで池内了氏の疑似科学入門の読了に時間がかかって、読み終わった頃にはレビューが出揃ってもうぼくごときが改めて書くべき状況じゃなくなっていた、と云うのはまぁ余談。
古川日出男のレビューはここで以前一度だけ書いたことがある。それはサウンドトラックについてのわりと酷評に近いレビューで、でそのあとぼくはアラビアの夜の種族を物語の終盤、3巻も後半になってから投げ出して、もうなんか古川日出男はいいのかな、ぼくと相性がよくない方向に向かってるのかな、みたいに感じたりもしていた。多分それは、ぼくが13 や沈黙/アビシニアンを読んで感じた興奮の種類を自分で理解していなかったからだ、と云うことに気付いた。
きっちりと発展した、精緻な文明・文化。そこに生の呪術的な思考が、野生の思考が紛れ込む。その強靭さで、破壊する。世界をドライヴする。その快感。
表面上綺麗に整った世界の伏流水として流れる、飼いならされていない思考が、その力強さで整合を打ち破る。そこに立ちあらわれるもの。
この小説では、世界を別の秩序のもとに組み伏せる思考は、人間のものですらない。それは、イヌのものだ。
そして、その角度から見た文明・文化の表面性と、そのほころび。イヌたちは人間たちの文明・文化に隣接した場所でその系譜を連ねながら、彼ら彼女ら自身の持つ文脈でそこに関与し、光を当て、再構築していく。
文化衝突と、それが生じせしめる物語。たぶんそれが、古川日出男からぼくが示してもらいたがっているものだったのだろう。現代日本文明や中世イスラム文化では、ただ単にスケール不足だっただけだ、と云うように、いまは思う。
うぉん!