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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

対応方法

井和弘さんのニセ科学にどう対応すべきかと云うエントリを読んだ(続編とも云うべきジョニー君と《ニセ科学》の本質と云うエントリもお書きなのだけれど、今日は言及しない)。ちょっと散発的で、微妙な言及をするけれど、この方の問題意識のありかたについては理解できるし、正当だと思う。

・新しい言葉が増えることの弊害

ニセ科学とはどういうものか、説明を読めばわかるが、ほとんどの一般人は、厳密な定義に興味はないと思われる。そもそも一般人には《科学っぽい》のか《科学》なのかの区別などつかない。判断がつかないところへ不安だけが煽られると、結局判断を他人に任せるようになる。

ここでそもそもでつながれると、それがどうして弊害となるのかよく分からないのだけれど、なんとなくおっしゃりたいことの意味は分かるような気もする。科学がよく分からないからニセ科学もよく分からない、と云うお話なんだろう。ただ、不安だけが煽られると云う点についてはちょっと同意しがたい(商業的なニセ科学は、その多くが「不安を煽る」手法に基づいている、と思う)。

・いじめ的傾向

結局、一般人が《二分法》的解決を求める状況はかわらず、いよいよ専門家によるニセ科学というお墨付きを期待する人々と、素人による勝手なレッテル貼りが蔓延する可能性がある。科学に対する理解は深まることは無く、科学者の権威だけは高まる。

ちょっと難しい。このいじめ的傾向と云うのは、権威と化した科学者からニセ科学を信じるひとたちへ向けられるものとして想定されているのだろうか。それとも、ニセ科学を喧伝しているひとやそれを商売としているひとに向けられる批判をいじめと把握していらっしゃるのか。
コミットしている人間が云うと信憑性が下がるだろうけれど、ことネット上の言説に限って云えば前者はほとんど見られない。それはもう2年以上前に行われた菊池誠によるmixiにおけるケーススタディで、実効性が低い、と判断されたからで(とは云え捨て置いていいのか、と云う指摘もあるけれど)。
で、後者については、それをいじめと呼ぶのが適切かどうか、と云う話になると思う。ぼくはあまり適切だとは思わない(強弁するひともいたけれど)。少なくともネットの上では、それはある意見の表明に対する対抗言論だ。
あと、ニセ科学を批判することで科学者の権威が高まった実例、と云うのは寡聞にして知らない(某プラズマ教授についてはよく知らないのだけれど、少なくとも権威を高めることに成功はしてないんじゃないだろうか)。

・生産性が無い

ニセ科学に問題があることは当然としても、具体的な行動としては何ができるのか。レッテル貼りには何も有益なことがないのは明らか。《ニセ科学》という言葉による啓蒙活動と、ネットにおけるいじめ的傾向の増加と、どちらが広がりが早いだろうか。非常に不安である。

ここではいちおう、ニセ科学への批判的言及はレッテル貼りではなくレッテル剥がしであると云う天羽優子の分析を引いておいて、いちがいにレッテル貼りには何も有益なことがないと云い切るのはどうか。以前書いたけれど(どこかで読んだ、と思ったら自分のエントリだった)、有効なレッテルの貼り方とそうでないものとがある、と云うのが実際のところだと思う。有効にレッテルを貼ることができれば、それは無益とは云えないのではないか。

ニセ科学にどう対応すべきか

そもそも啓蒙すべきことは、正しい《科学》とは何か、のほうではないか。であるならば、グレーを黒と断罪するような方向ではなく、グレーを白にするような活動を推進すべきではないか。例えば科学者がグレー企業に対してコンサルタント的な役割をするとか。

これはまぁ誰もが望ましいこととして同意するだろうけれど、実際には難しい。まずグレー企業にとってメリットがない(食い扶持を奪われる可能性がある。グレーのままなら、信じてくれるひとを顧客として稼ぎ続けることが可能かもしれない)。科学者も自分の時間で手弁当で出来ることは限られているから(霞を食べているわけではないからね)、そうなると必要なコストの支払い手がいない、と云うことになる。現実問題それでは回らない。

ニセ科学の問題は、実は科学への不明確で過剰な信頼が原因ではないか。

これはかなり以前から云い続けられていることではあるんだけれど(菊池誠による日本物理学会2006年年会「ニセ科学とどう向き合っていくか」発表スライド(PDFファイル、407KB)17枚目参照)、ここにメスを入れる効果的な方法、と云うのがなかなか見つからないのが現状で。

ぼくとしては問題意識がもっと共有されて、いろんな分野の専門家が直接もっと関わってきてくれればいいのになぁ、なんてやっぱり思ったりする(これはこれで「他力本願」的な批判をいただいた部分ではあったりするのだけどね)。