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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

フィギュアスケート2007全日本選手権

全日本選手権には、国際試合とは別種の緊張感と、見る側としての楽しみがあると思う。
国際試合に較べて、「自分と闘う」と云うより「互いと競う」と云う意識が強いように感じられるから。

実際のところは分からない。でも、「すべての要素を満たそう」と云うより、「自分の優れているところを発揮しよう」と云う意識が、全日本に挑む選手たちにあるように感じられる。だから、見る側としてはそれぞれの選手の素敵な部分をより堪能できる、ような気がする。

だから、実質的には一線級とは云えない太田由希奈鈴木明子の全力の演技を見ることができる。その個性がひょっとするとトップクラス(って微妙な云い方で、ほんとうは彼女たちもほかの競技では明らかにトップクラスと呼べるはずなのだけれど)の選手をほんとうにおびやかすかもしれない、と云う期待を持って見ることができる。

ただ、太田由希奈はまだ、彼女の弱点を補いきれていないのが残念だった。上位の選手の演技が飛び道具以外の側面でも急速に充実して来ている状況にあって、もはや彼女の「美しさ」は卓越したものとは感じられなくなりつつある(見る側としてはまぁ、それでもいいのだけれど)。難しいものだ。ってえかまだ足首やばいんじゃないか。

選手同士の闘い、と云う面では、織田のうつけの欠場によって男子シングルがなんだか凄いことになってしまった。高橋大輔がすでに抑えている枠を控除した、世界選手権の残り2枠を事実上3人の選手で奪い合う、と云うサバイバルゲーム。そして、やはり競い合う一選手として、圧倒的な存在感と説得力を示さなければならない立場の高橋。それってどんな合戦だ、とか思う。

そして、枠に入ることのできなかった中庭選手の姿に、彼が経由して来た時間を知っているうちのつれあいがひどく悔しがっていた。同世代にどんな選手がいるか、と云うことで、フィギュアスケート選手の運命は大きく変わってしまうのだなぁ。とは云え彼らの競った世界選手権の3枠も、高橋とともに今回出場することのなかった織田が確保して来たものなのだけれど。

ところで、初めて安藤美姫の「カルメン」の本来あるべき姿を見ることができた気がする。
とは云え随分粗いのだけれど。でもステップや合間に見られるひどくなまなましい表現力と、宙に浮いて「から」回転力の増す際立って鋭角的なジャンプの同居のアンバランスさ。それゆえのエッジの立った魅力は、他の誰にもない。ただ彼女の演技中の噛み付きそうな表情は魅力的と云う水準を超えて、ちょいと怖かったけれど(と云うか、演技以外のときにTVスクリーンに映る仔猫のようなふにゃふにゃの笑顔と、いったいそこにはどんな整合があるんだろう)。ただ、それは「闘える」表情で。
Okay。多分この分では、世界選手権ではもっとセクシィな演技を見せてもらえる。

真央は、えっと、なんと云うか、もう。
だいたいそもそも、彼女の天女っぽさ、みたいなのはスケートの綺麗さから生まれてるんだと思う。それは演技の得点としては計算しづらいものなのだけれど、でもそれは演技そのものに厚みと深みを与えて、なんと云うか、格、と云うようなものの構成要素になる。そこに、いまの時代の他のスケーターの誰にもない(いみじくも八木沼淳子が口にした)伸びやかさ、みたいな要素が加味されると、それはまぁ、無敵なはずだ。
一線で誰にも追随できないようなものがすでにあって、でもそこがまだ到達点とは思えなくて。もっと凄くなっていくはず、とか云う思い入れを許すような。そこが彼女の、けして見逃してはいけない大事な要素なんだ、と思う。

と云うような全日本選手権の楽しみと、また違った闘いが、とりあえず今シーズンの総決算になる世界選手権には待っているわけで。
シーズン初めに宣言したとおり、今年は安藤美姫マンセーで挑む所存なのだった。