Chromeplated Rat

街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

深夜理髪店

酒を呑んだ帰りに、床屋に行った。なんだかその非現実さ加減が可笑しかった。
まぁでもそもそも、床屋ってのは日常のなかの非現実、みたいな場所ではあるけれど。

うちのはす向かいに、なんか一種独特な雰囲気を持った床屋があって、いつもそこで髪を切ってもらっている。

ガラス張りの入り口の上には店名を書いた真っ赤なネオンサインが光っていて、店内の調度品は多分みんな古いアメリカもののアンティーク(椅子はぜんぶ人力でリクライニングさせる)。ドゥワップが流れていて、なんだか店内のあちこちがクロムメッキ。なんと云うか、そんな床屋だ(理髪店の店主がリーゼントなのはさすがに抵抗を感じるひともいるだろうな。でもこの店の仕立てるリーゼントのために、高速道路に乗って訪れる客がいるのも知っている)。

で、遅くまでやっているのを知っていた。仕事が終わって21時とか過ぎて帰って来ても、まだネオンが点いているから。そろそろ髪を切らないといけない時期なので、会社の宴会の二次会から逃げ出した帰り道にちょっと寄って明日の予約だけして帰ろうと思ったら、「このまま切っていったらどうですか」との申し出。

ガラス張りの入り口の向こうはすでに夜の帳の降りた街で、BGMには誰かのうたうドゥワップの「ハッピー・クリスマス」が流れていて。店主には「呑んでるからやっぱりいつもより体温が高いですね」とか云われたりして。とても手近でお手軽な、でも上等のバーで流れてるような非現実な時間。妙で、可笑しくて、でも心地いい。

と云うか、ひとが手で行う職人仕事みたいなのには、なにかしら贅沢な詩情みたいなものを与えるちからがあるのだなぁ、とか感じた。

で、店を出るときにカレンダーを貰った。赤の地にセクシーなヴァーガ・ガールの図案。
街暮らしの非現実性は、こんなところにぱっくりと口を開けている。