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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

ガムランの聴き方

えぇと、すげえ大仰なタイトルです。とは云え、ぼくもたいして造詣の深くない素人なので、そんな大層なことは書けません。ただ、ぼくのお薦めしたCDを買ってくれて、でもなんだかよく分かんなくて困っちゃった方がいらっしゃるようなので、ちょっと書こうかな、と云うだけです。

経験上でしか云えないのだけれど。だいたい音楽を楽しむのにはとっかかりがいる。なんと云うか、そのどこを楽しんでいいのか、みたいな部分が腑に落ちるかどうか。

ぼくはろけんろーる小僧だったので、高校生ぐらいのときはジャズがさっぱり楽しめなかった。どこを楽しんでいいのか、どう云うのがかっこいいのか聴いてもまるで腑に落ちなかった。もうとっかかりがないので、聴いても気持ちよくないし。
でも、あるときにあるベーシスト(誰だったか忘れた)のフレーズを聴いて、あ、かっこいいじゃん、とか思った。で、それをとっかかりに、他の楽器も自分なりの楽しみ方が少しずつできるようになった。面白いのは、ひとつひとつの楽器が順番になんとなく分かるようになっていったこと(これはぼくだけの現象なのか、それともジャズってのがそういうものだからなのかは分からない)。自分でもいじっていたはずのギターについて、なんとなくどこを楽しめばいいのか分かったのは最後だった。

もちろん、もうとっかかりもなにもないような音楽もあったりする。大学のときに友人に聴かせてもらった、古代ギリシャの音楽を楽譜を読み解いて再現したものは、これはもうさっぱり分からなかった。

で、ガムランなんだけど。
基本的には、ガムランは繰り返しで成り立っている。で、基本のリズムは16ビート。楽器にはリズム担当と旋律担当があるけれど、低音のものほど鳴らされる回数が少ない。
リズム担当だと繰り返し1回あたりいちばんおおきなゴンが1回鳴って、その裏拍にちょっと小さなゴンが鳴って、その倍の数クンプルが鳴って、さらにカジャルが鳴って、リズム担当で一番高音(と云うかほとんど超音波)のチェンチェンが32回鳴る、みたいな。
旋律担当でも同じ。低音を担当する楽器がゆっくりとベースラインを弾いて、中域の楽器がメロディを、高音の楽器が装飾音を奏でる(実際はこんなふうにきっちり整理できるわけではないにしても、まぁ、だいたい)。最高音の旋律楽器がコテカン技法で演奏を始めるともう目にも留まらない、バリガムランならではの超絶技巧になるわけです。

でも、これってその周期を捉え損ねると、なんか凄いペースで大量の打楽器が鳴っているだけにしか聴こえないかもしれない。でも、周期そのものを意識すると、意外なくらい音楽の構成が把握できる。で、大事なメロディはだいたい中域の楽器が担当してるんだな、と思っていれば、旋律を追うのも難しくない。旋律そのものは、実はぼくら東洋人にはなじみやすいものだと思う。

で、こういう構造は、クラシックなスタイルのガムランのほうが多分分かりやすい。日本で入手できる楽団としてはティルタ・サリとか、グヌン・ジャティとか。逆にヤマ・サリみたいな楽団だとこの構造の解体と再構築そのものをアプローチの対象としてたりするから分かり辛いかも。

なんか「ガムランのCD買ってみたけどなんだかとっかかりがないよ」みたいな方がいらっしゃったら、ご参考になるかもしれない、と思って書いてみました。
ちなみにこの構造が分かりやすいのは、やっぱりこのアルバムだと思う。演奏そのものはむしろアバンギャルドかも知れないですが(ろけんろーる臭くてぼくは好きですけど、でも微塵も「癒し」はないなぁ)。

ガムラン変幻

ガムラン変幻