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街や音楽やその他のものについてのあれこれ。

wino (「ワインの個性」堀賢一)

最近「本が好き!」プロジェクトからの頂き物ばかりだけれど、これもその一冊。

ワインの個性

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書評/グルメ・食生活

最近はそうでもないが比較的Expensive Winoな人生を送って来たぼくだけど、元来ハードリカーの人間であって、ワインをそれなりに消費していたのは一人暮らしで自炊していた30代前半くらいのものだったと思う。とりあえず仕事から帰って、シャワーを浴びてパスタを茹でてボトルに半分ぐらいのワインで食べて、それから改めて呑み始める、と云ったパターン。こう思い出すとそれなりの消費量のような気もするけど、要するにほんとうに「食事の一部」。

こう云う呑み方なのでもちろんそうそう値の張るものは呑めないし呑まない。おおむね一本1,000円以内のニューワールドワインかイタリア、van de paysクラスのフランスワイン。だいたい呑んべとしてのぼくのスタンスは(量を呑んでいたこともあって)コストパフォーマンスの追求だったので、グラン・ヴァンについてなにか語れるようなことはない。
ただまぁ、楽しむとすればそれぞれのワインの個性だったりもする。時折異常にハイCPなワインがあったりする(まぁコストを極端に絞り込んでいるので)のも楽しかった。

本書のタイトルは「ワインの個性」。でも、期待はずれと云う訳ではないが当然ながらそう云う安ワインを論じる本ではなかった。とは云え呑めもしないグラン・ヴァンの名前を並べ立てて蘊蓄を傾けるような「雑学本」ではまったくない。

中心になるのは、それぞれのワインの個性を生み出す背景。葡萄を実らせる土壌、地理的条件、気候条件、栽培についての発想。そうして、人々がそれぞれのワインを生み出すために傾ける技術と情熱。さらに、それを取り巻くマーチャンダイジング。実際のところ、ワインなんて葡萄を潰して絞って放っておけばできあがるもんだ、くらいに考えていたぼくとしては(ちょっと極端な云い方ではあるけど)、そこに注がれる具体的な技術とその背景について読めたのは楽しかった。

そう云う訳で、これはトリビア本ではない。挙げられているワインも(ぼくの感覚では)「試してみる」気になる価格帯に属するものが意外に多い。

この本はエッセイ集で、そう云う意味でワイン指南的な内容はあまりない(個人的には、ワイン指南本からの情報でワインを語るような人間に出くわすと、なんかもうこちらが照れてしまって、「もうあと500リットル呑んでから出直してこい」とか云いたくなる)。でも、それでもこの本には「ワインの楽しみ方の手がかりを手に入れる」ための情報に満ちている、と思う。そう云う意味で、酒席で蘊蓄を自慢する種本には向かないと思うけれど、自分のワインとの向き合い方を探すためのヒントはたくさん詰まっている。
大事なのは、あとは多分、自分で呑むことだろう。

(追記:
インターネットでのワイン購入についても本書では言及されている。錯誤を誘う紹介文で詐欺まがいの商品販売を行うネットショップの存在が指摘されており、それらのショップを束ねる某大手ショッピングモールの責任ある対応を求める記述がある。でもまぁ、このショッピングモールが誰でも連想する某社だとすれば、なんと云うか、「あぁ、ワインでも同じ行為を黙認してるんだな」と云った感想を持った。もちろん、ぼくは日常的には来歴を詐称する意味のあるワインなんか買わないけど)